アメリカ合衆国憲法は妥協の産物であると言われるが,その代表的な例は下院は人口比例に基づいて議員選出数を決めるのに対して,上院は各州1名づつの議員を選出するという規定であろう。これこそが、合衆国は元から連邦国家として存在していたのではなく,13の国が独立戦争という非常事態に際して、暫定的にまとまったものであることの何よりの証といえよう。即ち,対等な立場で戦ったものが、いざ独立が達成されると相対的な劣位におかれるのは承服できないという考え方からであろうか。
しかし、妥協の産物であるという例はそれだけではない。憲法修正への請求権が州議会にまで認められているということもその例ではなかろうか。日本の憲法では憲法修正の発議は衆参両院にしか認められていないが、アメリカでは上下両院の発議権はもとより、州議会の3分の2の承認の元に修正請求権が認められている。これは連邦議会と州議会の対立を妥協するための条文とも見られないこともないが,それよりも、憲法制定の連邦議会がそもそも新しい憲法を制定するために開かれたものではなく,単に憲法を改正するためだけに召集されたとものであったということに関係しているのではないか。つまり、新しい憲法を制定するには本来各州の同意が必要であったのが、このときは秘密裏に行われたということの代償としての、中央から州への妥協と解されなくもなくない。