公安委員会の独裁権は範囲が限定されていたとみなすべきであろう。とすれば、その範囲を超えて独裁権を行使しようとすれば、抵抗を受けることは当然であったろう。例えば、国有財産を貧乏な人々に分配するとか、土地を所有していない農民に貴族から徴収した土地を優先的に売却するなどという決定は、ブルジョア階級にはとうてい認められるものではない。ロベスピエールを指導者とする公安委員会はそこまで踏み込んだがために、失権せざるをえなかったのではなかろうか。
しかし、その理念は尊ぶべきものであり、ロベスピエールが死んだからといって、永久に消滅してしまうものでもなかろう。とはいっても、このことの影響は公安委員会の抜擢により、政府内に地位を得たものにとっては、たちまち、その地位の喪失に繋がるものであり、例えば、ナポレオン・ボナパルトも、公安委員会の支配時代に登用された者の一員であるから、ここでいったん、出世の道を閉ざされることになったとみなければなるまい。