グローバル経済がもたらしたものに人事労務対策における能力主義がある。グローバル経済においては、投資資金は国境を超えて、自由に移動し、国家の制御がおよばない活動を繰り返す。それら投資資金の求めるものは、短期的な利益の確保であり、長期雇用を前提とする終身雇用、年功賃金という人事労務対策になじまない。それら、投資資金の強い要求があれば、企業も拒絶しつづけることは困難となる。まして、その要求に合理的な根拠があればなおさらである。即ち、終身雇用、年金賃金は国内市場の恒常的な規模の拡大があってこそ成り立つものであり、規模の拡大が人口減少によって成り立たないというのであれば、制度を維持することの意味はないというものである。
その要求に反駁できない企業は確かに、終身雇用、年功賃金制度を放棄し、より合理的な非正規社員の登用による人事労務対策に転換しなければならないであろう。しかし、人口減少にもかかわらず、適正な企業利潤を確実に上げている企業であれば、何も無理をして人事労務対策を変える必要はない。投資家に対して、十分に報いているのであるから、企業としての責任は果たしているという言い分は根拠を持つ。
確かにそれはそのとおりであるが、かといって、能力主義に基づく法規制をも排除すべきものでもあるまい。例えば、男女雇用均等法におけるセクハラ配慮義務は女性労働者の能力発揮を妨げるからという理由が表向きではあるが、能力主義を採用しないからといって、導入しないわけには行くまい。なぜなら、そこには、女性労働者の人権に配慮するという背景が存在しているのであるから、能力主義云々は理由にならないというべきであろう。