ILO100号条約は、同一労働価値同一賃金を内容とする。我国はこの条約を批准している。批准すれば、本国で法律化するか、条文化しなければならない。しかし、我国はこの条約に対応した特別の法律をつくっているわけではないし、労働基準法に条文化しているわけでもない。
その理由は、労働基準法第4条に内容が含まれていると解釈されているからである。労働基準法第4条は女性であることを理由に男性と賃金差別をしてはいけないというものである。その第4条にILO100号条約の内容が含まれていると解釈されるのであれば、解釈幅は大きくなるものと覚悟しなければならない。それはつまり、労働基準法第4条違反で訴えられれば、殆ど勝ち目はないということにもなろう。
例えば、第4条違反が公序良俗に反するとされれば、不法行為につながり損害賠償に行きついてしまう。又、女性であることを理由に賃金差別が行なわれていると主張するのであれば、比較対象としての男性賃金を明確にしなければならないが、賃金台帳の公表をプライバシーの侵害であるとして拒否しても却下される。あるいは、世帯主条項は適法ではあるが、中立性が担保されているという条件での適法であるから、中立性の厳正な審査が要求される、などというものである。
以上のような判例傾向は結局、ILO100号条約が日本国内で条文化されておらず、労働基準法第4条の拡大解釈に委ねられているからであろう。それでは、どうしても使用者側に不利な判例傾向にならざるをえない。それならば一層、ILO100号条約を労働基準法に新しい条文として定めてくれたほうが、使用者としては労働基準法第4条対策を取りやすくなる。