改正前の年金制度では、60歳代前半に在職している者は、給与の多寡にかかわらず、年金受給額の2割はカットされていた。その理由は、在職者には給与があるのだから、年金を2割ぐらいカットしても生活資金としては十分補償されているという行政の判断が働いたものと思われる。
しかし、今回、改正された年金制度では、この2割カットというものが廃止され、60歳代前半で在職しているものは、年金と給与の合計額によっては、全額が支給されることになった。それでは、改正前の2割カットの理由から見て、現状が2割もカットすると、生活が困窮するというほどになったというのであろうか。しかし、現状は、デフレ経済が継続しており、物価高で生活が苦しくなっているという情況ではない。
では何故、2割カットを廃止しなければならないのであろうか。行政の説明では、年金受給者の労働意欲を確保したいためであるとされているが、では何故、年金受給者の労働意欲を確保しなければならないのか。その答えは当然、労働力人口の減少からくる生産の低下、社会保険被保険者の増加による保険料支出者の確保などであろうが、こうした行政側の対応の変化は、逆にいえば、60歳代前半の在職者の政治的発言力を強めることにもなる。
行政の方から、低姿勢で労働の現場に留まって貰うよう懇願しているようなものであるから、年金受給者はいくらでも強いことが言える。仮に、年金受給者を冷遇するような対応をするというのであれば、いつでも労働の現場から退場すという意思を示せば、政治的圧力団体としての地位も望めるかもしれない。時代は、年金受給者にフォローの風が吹いているといえるのであるが、ただ、それも年金受給者が一致団結した場合の話である。