民法625条第1項によると、労働者の地位を使用者が第3者に譲るについては、労働者の承諾をえなくてはならないとなっている。このうち、労働者の承諾については労働協約又は、就業規則において包括的な同意がなされているものとの解釈が為され、それに基づいて出向が命じられている。しかし、その出向も在籍出向に限ってのものであり、転籍を伴うものであれば、包括的同意は及ばないとされる。その場合、労働協約や就業規則は効力をもたず、個別の同意が必要とされる、というのがこれまでに構築された法理となっている。
この法理は当然のことであろう。なぜなら、労働契約は労使双方が基本的な義務を履行すればよいというものではなく、附随的な義務も誠実に履行する責任を伴うものであるからである。それならば、出向などというものは労働契約締結時の労働する場所という労働条件を変更するものであるから、使用者は本来的に誠実義務に反していることになる。まして、使用者も変わることになる転籍では誠実義務の履行により大きく反しているのであり、その反動として、労働者自身の個別の同意が求められるというのも当然のことといわねばなるまい。
そればかりでなく、誠実義務に反してもなお、命じるというのであれば、そこには企業活動上の必要性が厳しく求められるのも当然のことであり、それに加えて、労働者が受ける不利益に配慮する責任も当然負うことになるであろう。いってみれば、民法625条第1項の適用も労働者への配慮と尽くして後の適用でなければならないということになろう。