韓国は今、国民の国に対する信頼が揺らいでいる。理由は言うまでもなく、客船沈没事故に対する韓国政府の対応である。
国に対する信頼という点では、公的年金制度も無関係ではない。韓国の公的年金は公務員、私立教職員及び軍人等が加入する特殊職域年金とそれ以外の勤労者及び自営業者を対象とする国民年金に区別される。そして、どちらの制度も信頼性という点では重大な問題を含んでいる。
特殊職域年金での問題は給付水準の算定方式である。退職年齢に関係なく、退職時の最終報酬に基づいて算定されるというのであるが、退職時の報酬は年金加入時より上がっているとみるのが普通であろう。その上がった報酬に基づいて年金額を算定すれば、給付額は当然膨らむことになる。そこで、全加入期間を平均した報酬に基づいて年金給付額を算定するというのが年金財政の基本であろう。受給権者の抵抗を恐れて手を付けられないのだとすれば、事態は深刻化するばかりであろう。実際、これは日本の旧国鉄が採用していた年金の算定方式である。その結果、国鉄がどうなったか、それを見れば、韓国の特殊職域年金に対する対策も自ずからわかるというものであろう。
一方の国民年金である。日本の公的年金には税金が投入されている。だから、給付は保険料、税金、そして運用益からなる。しかし、韓国の国民年金には税金が投入されていない。だから、給付は保険料とその運用益からのみとなる。この給付構造は日本で言えば企業年金と同じである。企業年金の場合、問題になるのは、受給権の保護である。その受給権を保護するのは、いうまでもなく国の責任であるが、その国に対する信頼が今回の事故対応によって揺らいでいる。本当に、国は年金を払ってくれるのか、受給権は保護されているのかという不安が増幅する。現実に今回の事故以前から、すでに年金制度廃止運動があるというからなおさらである。今回の事故が単なる海難事故でとどまるか否かが注目される。今、必要なのは、国民の信頼を取り戻すこと、告げ口外交などしている場合ではない、ということに気付くかどうか、であろう。