30年戦争はヨーロッパの姿を大きく変えた。なによりも、大きな変化はヨーロッパを統括する政治的権威が衰退したことであろう。
その代表が神聖ローマ帝国という伝統的な政治的権威。神聖ローマ帝国の支配下にあると目される領域は小国に分裂し、それぞれに外交上の主体性を主張する。それに対して、神聖ローマ帝国の統制力は及ばない。
次に後退した政治的権威はパプスブルグ家。ネーデルランドという金の卵を失い、財政力は弱体化する。そして、最後にローマ法王庁。プロテスタントの自立を阻止しえず、カソリックによる宗教的権威の独占という地位は永久に失われることになる。
以上のようなヨーロッパを統括してきた伝統的政治的権威の衰退は、他方、新たな新興国の誕生をもたらす。ネーデルランドの新教徒はパプスブルグ家の支配を脱し、新しくオランダを建国する。スイスの新教徒はローマ法王庁からの干渉を排し、パプスブルグ家の武力干渉からも逃れて、永世中立国としての地位を承認される。
まさにヨーロッパは生まれ変わったといえようが、ただ、そのことはヨーロッパ全体を統一する基本的ルールのない世界が出現したということでもある。そこには、当然、国家同士の衝突が予想されるわけであるから、次の時代の課題として、そうした衝突を事前に回避するための新しい知恵が求められることになろう。そうした中から、フーゴー・グロチウスの国際法という理念が生まれてくることになるのであるhが、それが法制化されるまでは、まだまだ、歴史の試練を経なければならない。