白鵬が琴奨菊との取り組みで右脇腹を痛めた。打ち出し後、名古屋市内の病院でエックス線写真をとってもらったということであるが、ここで問題は、この時、使った保険は健康保険か、それとも、労災保険かということである。
力士の仕事は土俵に上がって相撲を取ることであるから、その過程で右脇腹を痛めたということになると、業務上の事由で負傷したということになる。健康保険は業務外の事由でしか使えないから、今回の場合、健康保険は使えないことになる。使えば、健康保険で給付した分の返還を求められる。となると、今回使った保険は労災保険であるといわざるを得ない。
労災保険を使ったとしても、まずは、療養補償が給付されることになるが、症状によっては、休業を余儀なくされることもある。休業となると、力士の場合、本場所の休場ということになるが、では、その場合、力士に対し、労災による休業補償給付が支給されるのかということである。そこで、休業補償給付が支給されるための要件を見てみる。
1、業務災害により療養していること。
2、その療養のため労働することができないこと。
3、労働することができないため賃金を受けていないこと。
以上3つの要件すべてを備えなければならないのであるが、本場所中の取り組みで大きなけがをして、相撲を取ることができないのであれば、1 と 2 に該当する。問題は 3 である。相撲協会の寄附行為施行細則、第8章給与、第77条によると、力士の給与は月給制であるといい、これは、本場所への出場、休場如何にかかわらず番付上の地位に基づいて支給されるものであるらしい。つまり、休場という事態になったとしても、給与は支払われるということであり、3 の要件、労働することができないため賃金を受けていないという要件に該当しないことになる。支給要件は3つの要件すべてに該当しなければならないのであるから、この 3 の要件を欠く相撲協会の力士は、本場所中けがを負って休場しなければならなくなっても、労災から休業補償給付は支給されないことになる。