パナソニックが子会社の三洋電機の洗濯機と家庭用冷蔵庫事業を中国のハイアールに売却した。三洋電機の従業員の雇用はハイアールが維持することになるという。
これは商法上の事業譲渡ということであろう。事業譲渡では、権利義務の承継は原則的に譲渡会社(パナソニック)と譲受会社(ハイアール)との間で結ばれる譲渡契約で定めた範囲で行われることになっている。その権利義務には労働契約に基づくものも含まれるから、問題は譲渡契約において労働契約のうち、どこまでの範囲が定められているかであろう。定められた範囲が従前の労働契約の内容に及ばないのであれば、ハイアールに移ることになる三洋電機の従業員の個別の同意が必要となろう。そしてまた、実質的に従前の労働契約と変わらないのであっても労働者にとって労働契約の相手先が変わるのであるから、やはり同意は必要になるものと思われる。いずれにしても、同意は必要であり、同意しない限り、三洋電機の従業員はハイアールに移籍されることはないとみる。
しかし売却はすでに行われたというのであるから、移籍に伴う従業員の同意もすでに得られたものとみなければなるまい。移籍する従業員は海外に約2000人、国内に約300人いるといわれる。移籍に際して、賃金、労働時間その他労働条件を明示した文書は交付されたのであろう。。
ただ、このハイアールという会社、冷蔵庫では世界シェア12.6%、洗濯機では9.2%といわれるが、そのシェアを維持するため相当シビアな人事管理を行っている。業務評価で下位と判定され者は解雇され、年間約1割の従業員が入れ替わるといわれているのだ。移籍に際し、同意したとされる従業員は果たしてそのような事実を知ったうえで同意したのかどうか、はなはだ不安ではある。
もちろん、日本の労働法規には解雇権濫用法理があり、整理解雇の四要件もしくは四要素があり、そのような慣行が通用するとは思えないが、相手は中国企業である。このたびの高速鉄道事故の後処理をみても、常識外のことをやってこないとも限らない。ここは、メディア等によるしっかりした監視が必要ではないか。