宮城県でダンプカーの運転手として働く求人に応募した労働者が、実際には福島県の東京電力第1原子力発電所の敷地内で働かされていたという事件が発覚した。
働いていたというのであるから、労働契約は締結していたことになる。とすると、法令違反は職業安定法では済まず、労働基準法にも違反していたことになる。
労働基準法では労働契約締結の際、使用者は労働者に対して、就業の場所、従事する業務を明示しなければならないことになっている。(労働基準法第15条第1項)実際に働いてみたら、就業の場所が違っていたのであるから、この条項に違反していたことになる。その結果、「話が違う」とか「帰ってくれてもいい」などという紛争が発生することになった。
就業の場所や業務内容に関するルールが明確にされていなかったために、労働契約を巡る紛争が起こるということはよくあることである。その原因は事業主、ことに中小事業主と労働者双方ともに、労働契約に関するルールをよく理解していないところにある、と厚生労働省は見る。そこで、厚生労働省は中小企業事業主と労働者に対して、望ましい労働契約のあり方というものを理解させ、周知させる事業を始めた。「中小企業労働契約支援事業」というものである。平成20年8月に始まった事業であるが、今回の事件を見る限り、この事業が果たして効果を上げているのかどうか疑念を抱かざるを得なくなってきた。
事業の業務委託を受けているのは全国中小企業団体中央会と全国社会保険労務士連合会であるが、それぞれ約1億5千万円づつ、合計約3億円の予算がついている。社会保険労務士連合会が厚生労働省から業務委託を受けた事業に雇用保険コンサルタント事業があるが、この事業は平成22年度をもって廃止された。廃止されたのは事業仕訳の結果である。今回のような事件が起きると、中小企業労働契約支援事業も事業仕訳されるのではないか、という不安も出てくる。