農耕民族国家が遊牧民族に戦争を仕掛けるとき、兵員の数では圧倒的に優位にあったであろう。しかし、そうした戦争の結果を見ると、農耕民族国家が勝利するということは少ない。このことは、遊牧民族国家の戦術が兵員の多寡を考慮外とするほどに優れていたということか。それでは、遊牧民族国家の戦術とは何か。それこそが騎馬戦術であり、その戦術の発見こそが、世界の歴史を一変させたといってもよかろう。
いくら大軍でも、目の前に敵がいなければ戦争にはならない。とすると、寡勢の軍は大軍に対して敵がいない状態をつくりだせば、戦いを有利に進めることができるかもしれない。敵がいない状態をつくりだすとは、軍の移動によって可能となる。しかし、移動は敵対するもの同士、それぞれにとって可能であるから、ただ、移動するというだけでは前に敵のいない状態をつくりだすことはできない。そのような状態を移動によってつくりだすには、相手よりより早く移動する以外に方法はない。とすれば、どうすれば敵より、より早く移動することができるかという問題になる。
その問題は機動力を強化することによって可能となる。機械力が未発達の時代、それを実現するものがあるとすれば、馬を利用することしかない。馬を用いた者こそ大軍に対して、目の前に敵がいないという状態をつくりだすことができるといえよう。
このような軍事上の革命を実現されては、大軍を擁する軍隊といえども対抗しようがなくなる。かくして、騎馬民族の時代が始まるのであるが、そうして考えてみると、戦略拠点への兵力集中を特徴とするナポレオン戦法も騎馬民族の戦術を応用したものと解せなくもない。