安全配慮義務というものがある。労働契約では使用者に課される義務である。その義務の履行を怠ると、過労死事故というものが起こる。その結果、使用者が損害賠償責任を負うことになる。
しかし、この安全配慮義務は何も労働契約上の使用者に限ってのことではない。地震の発生しやすい地に原子力発電所を建てて、稼働させていれば、住民は当然、安全に対する配慮を求めたくなる。現に、スーリマイル島、チェルノブイリで原発事故は起こっているし、日本でも、2007年には新潟中部沖地震で柏崎刈羽原子力発電所が放射線漏れ事故を起こしているのであるからなおさらである。
問題は、地震の大きさが想定外の大きさであった場合である。安全配慮義務が想定内の事態に対して要求されるれるのであれば、想定外であった場合、責任は免れる、もしくは軽減されるということも考えられる。そこで、今回の東日本大震災の場合である。M.9.0の大地震である。その分では想定外ともいえようが、では、これまでにM.9.0以上の地震がなかったかといえば、そうではない。現実に、1960年のチリ地震のM.9.5を最大として5回も起こっている。日本でも、貞観11年(869)に同じ規模の地震のあったことが記録されているという。そういう事実があるのであれば、今回の地震を全く想定外とは言いにくくなる。
M.9.0以上の地震があったことを知っていて、コスト削減のため安全対策を軽減していたとすれば、当然、安全配慮義務違反を問われることになる。その場合、責任者は原子力発電所の建設、運用にかかわった関係者すべてということになろう。即ち、国、東京電力、原子力委員会、原子力安全委員会、原子力委員会・保安院などである。
そして、これらの関係者が想定外、想定外と強調すればするほど、それはすなわち、安全配慮義務違反を免れよう、もしくは軽減されようとしているかのようにも見える。、