権利は持っているが,周りに気を使わなければならず、なかなか行使することができない。これは総理大臣の衆議院解散権のことではない。年次有給休暇における労働者の時季指定権のことである。
正当な権利であるから、取得率は100%であってもおかしくはない。ところが、実際は平均で50%台でしかない。それも、大企業を含めての平均であるから、中小零細企業だけならもっと低い。
この取得率を向上させるには、職場の風土を変えるしかない。職場の風土を変えるのは,企業の自主性に任せるべきではあるが、もはやそのようなことでは追いつかない。政府の強力な指導が必要である。しかし、政府の指導も政権次第では困るから,それを担保するための国際的な拘束力がほしい。そこで、ILO132号条約の批准である。
ILO132号条約は以下のような内容である。
「労働者は1年勤務につき3労働週(5日制なら15日,6日制なら18日)の年次有給休暇の権利をもつ。休暇は原則として継続したものでなければならないが、事情により分割を認めることができる。ただし,その場合でも分割された一部は連続2労働週を下らないものとされる。」
日本政府はこのILO132号条約をまだ批准していない。批准していなくても,日本には労働基準法があり、労働基準法では39条に年次有給休暇の規定を設けている、というのがこれまでの日本政府のいいわけである。しかし、労基法39条の内容は、ILO132号条約の水準には達していない。特に,連続した2労働週を下らないものとされる、という部分である。連続した年次有給休暇の取得については,5日を超える部分の計画的付与制度が設けられているが、連続した2労働週を下らないという水準にはほど遠い。
ILO132号条約を批准してこなかった日本政府とは自民党政府のことである。その自民党政府が政権の座から退き、民主党が政権を掌握するとなると、ILO132号条約を批准するのかどうか、注目されるところである。ことに、民主党を支援する連合が,132号条約の批准を要望していることから、なおさら注目されるところである。