退職金というと、一時金の場合と年金の場合がある。日本は一時金が多いが、アメリカは年金が多い。企業年金である。企業年金を実施すると、企業は定期的に一定額もしくは給与の一定率を掛け金として拠出しなければならない。拠出された掛け金は資産管理機関に積み立てられることになる。労働者は退職後一定年齢に達すると、その資産管理機関から年金で退職金を受けとることになる。資産管理機関はもちろん金融機関であり、企業が企業年金を実施する際、契約を締結した金融機関が資産管理機関になることが多い。
労働者がその資産管理機関から何の疑いもなく年金を受け取るのは、労働者がその金融機関に高い信頼感を持っているからであろう。となると、その信頼感が揺らいだ場合、退職者は大きな不安に襲われることになる。そればかりか企業年金制度そのものの持続性にも、影響を与えかねない.。従って、金融機関の信頼性回復は緊急の課題となる。
企業年金は、労働者が退職金を受けとる権利を保全するということでは大きな意味を持つ。企業会計から離れ、外部の金融機関に年金原資が保全されていれば、企業が倒産しても労働者は確実に企業年金を受け取ることができる。それを保証するのがエリサ法であるが、しかしそれでもまだ安心することはできない。確かに、企業がつぶれた場合の退職金の保全措置は備わっているが、年金原資を管理している金融機関そのものがつぶれた場合はどうなるのか。もちろん、労働者が年金を受け取る権利が消えてなくなるわけではないが、特別の保全措置があるわけではない。労働者は取り付けに走らなければならないであろう。
今般、アメリカ政府は金融機関に公的資金の投入を図る法案を議会に提出したが、これはいわば、そうした場合の保全措置としての意味合いを持つのではないか。決して、ウォール街の金持ちを救済するだけのものではないであろう。