後期高齢者医療制度において、国民の反発を招いている理由の一つに、75歳という年齢を区切って新しい制度に移行させている点がある。なぜ、75歳なのかということについて,明確な説明がないからである。確かに、説明は苦しく合理的と評せる理由はない。ただ、75歳と区切ったことによって,確実に生ずる変化がある。
古い資料で申し訳ないが,平成13年度の厚生労働白書に次のようなことが書いてある。
「男女ともに年齢の上昇とともに、子供との同居率が高くなっているが、同一世代ごとにみると,75歳以後の後期高齢期になって同居率が上昇するという傾向がある。」
もちろん、高齢者一人での生活が困難になったことが大きな理由であろうが、それ以外にも理由はある。例えば、次ぎのような場合だ。
被保険者の直系尊属の場合、同居していようが、同居していまいが生計維持要件があれば健康保険の被扶養者になれる。しかし、姻族の場合、健康保険の被扶養者になるには、生計維持要件だけでは不十分である。夫が健康保険の被保険者であった場合、妻の父母、祖父母は夫の健康保険の被扶養者になるには同居していなければならないのだ。同居しているかどうかは住民票で確認する。実際に同居していれば問題はないが、形だけ住民票に登録している場合がある。理由は娘の夫の健康保険の扶養に入り、国民健康保険の保険料の支払いを免れるためだ。
平成13年度の厚生労働白書によると、75歳以後、子供と同居する傾向が強まるそうである。その理由が、国民健康保険の支払いを免れるためであっても、実際に娘の夫と同居するのであれば問題はあるまい。しかし、住民票だけを移して実際に同居していないとなったら、これは不正である。今回の後期高齢者医療制度において、75歳以上の高齢者を健康保険の被扶養者から切り離した場合、こうした不正加入は確実に排除できる。もちろん、これだけが75歳と区切った理由ではあるまいが、不正を正すということでは75歳と区切ったのはそれなりの意味はある。