印刷技術というものは、何もヨーロッパだけにあったものではない。中国にもアラビアにも印刷物が残っている。それが、ことに、ヨーロッパでの印刷術の発展が歴史上強調されるのは、そのことが、ジャーナリズムの成立に結びついていたからであろう。
ジャーナリズムとして成立するには,印刷術によって大量に生み出された出版物が単なる娯楽書又は、教養書として終わっていたのでは、多くの人々の間に浸透することはなかったであろう。そこには、やはり、人々が社会問題として深く認識している問題が厳然として存在していたからこそ、人々の注目を集めたものと思われる。
その問題とは、中世キリスト教による全社会的な支配関係であり、その説くところによる不合理さへの追及である。そしてそれは、個人的能力の限界を超えた、ジャーナリズムという出版業界の成立に委ねてこそ可能であるという共通の認識があったからこそのものではなかろうか。そして、その中心的地位に位置していた人物こそが、エラスムスということになろうか。