正社員とパート社員の待遇は均等でなければならないという法律はない。労働基準法第3条では、国籍、信条、社会的身分を理由として賃金、労働条件、その他の労働条件について差別的な取り扱いをしてはならないと規定しているが、パート社員という地位は社会的身分ではないという判例がでているので、賃金に差があっても違法とはならない。
しかし、現実に賃金格差があれば見過ごしにはできない。ことに、同じ仕事をしていて賃金だけが違っていればなおさらである。そうしたことの不公平を訴えた裁判が丸子警報器事件(平成8年3月15日、長野地裁上田支部)であり、正社員の給料に対してパート社員の給料が80%以下であれば、公序良俗に反し違法であるという判決が下されている。
この判決によって、正社員とパート社員の賃金格差について一定の基準は示されはしたが、別の見方をすれば、正社員の81%以上の賃金を支給していれば、労働基準法にも、民法にも違反しないということになる。
となれば、パート社員で事業の運営が賄えるのであれば、パート社員を使った方が人件費が押さえられるということになる。なにしろ、正社員の81%の賃金でいいのであるから。
問題は果して、パート社員で運営できる事業があるかどうかである。それは、マニュアル化した作業で対応できる事業であれば、十分可能であろう。現に、フランチャイズ制のサービス業などは、そうした典型であろう。そして、そうした運営方式を全面的に取り入れられるのも、ひとえにパート社員の給料が正社員の給料の81%以上であれば違法性はないという丸子警報器事件の判例で示されているからである。
しかし、こういう判例があるからといって、いつまでもその基準が通用するとは限らない。なぜなら、同様の件で、別の誰かが、再度、提訴して丸子警報器事件の判例が覆るようなこともあるかもしれないからである。同一条件同一賃金は労働条件の大原則であるから、その可能性は常にあるというべきであろう。となると、パート社員の活用を人事労務対策の核としている事業は、その経営方針の根幹が揺らぐことになる。