中央集権化への方向性が明確になり、領民への支配力が後退した封建領主は、生存への道を自らを傭兵化することに見出した。そのような傭兵が主力となって百年戦争が戦われたわけであるが、彼らに戦争への大義などというものは始めからあるわけはない。ただ、金で雇われて戦っているだけである。
そのような戦争が百年近くも続いていれば、戦う気力などというものも失われていくものであろう。フランス国内の領土がイギリス国王のものになろうと、それは国王の問題であって、我々貴族達とは何の関係もないという気持ちであろう。そこには、傭兵であろうとフランス人であるという意識もすでに消えかかっていたとみなせなくもない。
そのような無気力状態の中に、改めて、フランス人としての意識を目覚めさせる声が上がったとすればどうなるか。気にとめる者は誰もなく、聞き流されることになることが凡そのことであろうが、ただ、その声の中に今までとは違う何か新鮮なものを感じたとしたら、彼らの国民意識は蘇るに違いない。
ジャンヌ・ダルクの呼びかけは、まさに、そのような役割を果たしたといえようか。しかし、なぜ、彼女の呼びかけだけにそのような反応が起こったかは明らかではない。